アーティスト

Rocket Bass RB-115 × 廣瀬 “HEESEY” 洋一(THE YELLOW MONKEY)
~ライブ導入ストーリー


2022.11.11

「風が震えるような、地面が揺らぐような音でずっとやって来ましたし、それが僕の美学」

  

THE YELLOW MONKEYのベーシストとして、そしてソロ・アーティストとして多岐にわたる活動を続ける「ザ・ロック・ベーシスト」HEESEYこと廣瀬洋一氏。これまでSVT、SVT-III、SVT-3PRO、SVT-810、V-4B、B-15、B-100RなどさまざまなシーンでAmpegアンプを使い分けてきた廣瀬氏は、2022年9月のファンクラブ「WE☆SAY」限定ソロツアーを機にRocket Bass RB-115を導入。全国の小規模なライブスペースを回る本ツアーでは、RB-115がベスト・ソリューションになったという。同ツアーの最終日に、導入の決め手やツアーでの手ごたえなどを訊いた。


Rocket Bass RB-115導入の決め手

──HEESEYさんがRocket BassシリーズRB-115を導入されたきっかけを教えてください。
 2022年9月から“やるっきゃNINE〜廣瀬バカ一代マイク一本だけベース一本だけ”というファンクラブ「WE☆SAY」限定ソロツアーを行っていたんですが、会場の規模が小さいところだと40人キャパ、大きいところでも90人キャパぐらいなので、そこで大きなSVTを鳴らすのはちょっとなって感じだったんですね。もちろんバンド・サウンドでSVTを鳴らすのは良いんですけど、そういったサイズの会場で、しかも自分ひとりマイク一本ベース一本で回るなら、あえてミニマムなセットで音を出してみたかったんです。もともと僕は長い間Ampegを使わせていただいているんですが、ビンテージ指向もあってB-15という名機を何台か購入していて、今自宅に1962年のB-15があるんですよね。最初はそのB-15をツアーに持っていこうかとも考えていたんですけど、ビンテージだしちょっと怖い。あとB-100Rという100Wのコンボ・アンプも持っていて、それでも良かったんですけど、「今のアンプ事情ってどうなっているんだろう?」と思って、YouTubeやいろいろなサイトを見たところ、AmpegからRocket Bassシリーズというのが出ている。しかもスピーカーも8インチから15インチまで様々なバリエーションがある。それでまず興味をもったんです。

──出力ワット数やスピーカー口径についてはどのように考えていましたか?
 自宅ではB-15などを弾いているんですが、ある程度まで音量を上げるとどうしても少し歪みっぽくなるというか、狙っている歪みよりは歪み過ぎてしまう感じがあったんですね。それはそれで良しとすることもできたんですけど、流石にライブ会場ではもっと音量を上げるだろうと思いましたし、自分が気持ち良い音量まで上げた時にちゃんと良い音で鳴ってくれるアンプを求めていました。Rocket Bassシリーズのラインナップでは、もともとB-15が気に入っていたので15インチ・スピーカーのRB-115と、ここ数年はMarshallのアンプに12インチ4発のギター用キャビネットを組み合わせて使っていたので、12インチ・スピーカーのRB-112が気になっていたんです。どちらか決めかねていたんですが、最初に楽器屋さんでRB-112を弾いてみたところ、すごくローも出るしワット数も100Wと十分。ただ、やっぱり15インチの方も気になっていたので、RB-115や10インチ2発のRB-210まで試奏させてもらったんですけど、最終的にはRB-115とRB-210のふたつで悩んだ末、今回はRB-115だなとなりました。

──その決め手はどのようなポイントだったのでしょうか?
 ざっくりとした大きな共通項で言うと、RB-210はSVT-810の鳴り方に寄るんですよね。10インチ・スピーカーの鳴りというか。それと比べるとRB-115はB-15に近い。音のスピードやロー感にでかい口径1発という音の感じがあるんですよ。もちろんSVT-810もずっと使っていたので、その良さも十分知っているんですが、小さい会場でほどほどの音量を出すなら15インチの方が説得力があると感じたんです。それと、B-15から脈々と受け継がれているAmpegの15インチの鳴りっていうイメージもあって、例えばニューヨークあたりのクラブでベースを弾くようなセッションがあったとしたら、その時はSVT-810じゃないだろうっていうイメージですね。今回のツアーはこれまで行ったことがない場所と会場ばかりだったんですけど、なんとなくレトロで古めかしい会場というイメージは自分の中にあったんです。そこで小編成中の小編成である自分ひとりでベースを弾いて歌うならば、やはりRB-115だったんですよ。もうひとつのアイディアとして、もう少し大きなサイズになるけど100WヘッドのV-4BとSVT-212AVという12インチ2発のスピーカーを組み合わせる方法で、実際に試してみたんですけど、流石に音が大きすぎるし、音量を抑えるともう一歩ドライブ感が物足りなかったですね。


ファンクラブ「WE☆SAY」限定ソロツアー、下北沢440公演より。


Ampegならではの音があったうえで最新の音

──Rocket Bassシリーズはトランジスタのレガシー・プリアンプとクラスDパワー・アンプという構成です。そのあたり「Ampegサウンド」へのギャップはありませんでしたか?
 これまでにもトランジスタのアンプは使ってきましたし、そもそもTHE YELLOW MONKEYでデビューする時に初めて買ったAmpegがSVT-IIIで、あれも真空管とトランジスタのハイブリッド・アンプでしたから、抵抗感みたいなものはなかったです。それと、Ampeg側も「自分達の売りは真空管アンプだ」というのはわかっていて、そのうえでトランジスタの良いところを真空管アンプ的に寄せているような気がする。もちろん、厳密に言うとビンテージのSVTはビンテージの音だし、B-15はB-15の音。ただ、SVTもV-4BもB-15も、大きな意味でのAmpegファミリーが持つ特徴的な音で、ムチムチ感やぶっとさがあるんですよ。Rocket Bassシリーズは、そういったAmpegならではの音があったうえでの最新の音という感じですね。最新なんだけど、Ampegファミリーならではの粘り気とムチムチ感、自分が聴いてきたり弾いてきた、出したい音っていうのはちゃんとルーツにあると思いました。それと、今回はベースと歌だけとか、ベースのフレーズをレクチャーするような場面が多くて、バンド・サウンドの中でベースを弾くのは最後に音源と一緒に演奏する時だけ。なので、ギターやキーボードと混ざった音よりもベース単体の音を大事にしたかった。こういうケースはレアで、普通ならベースは混ざってなんぼなんですけど、今回はベース1本でなんぼという感じで、それはいつもと違う部分です。かつ今回の会場のサイズ感に合わせた音量にした時に、ここで鳴っている音が自分の理想の音になるように音作りをしたかったし、それができたと思います。

──コントロール類の効きについてのご感想は?
 ベース、ミドル、トレブルはいつもの感じで、完全にAmpegのベースだしAmpegのミッド。これでいいんだよと思いましたね。今回はGibsonのThunderbird 2のリバースとノンリバースの2本用意していたんですが、アンプのツマミは全部5にして使っています。それぞれのクセに合わせた微調整などは2台用意したペダルで行っていて、歪みもアンプに搭載されているSGTは使わず、必要な場合はペダルで歪ませていますね。というのも、今回は「この帯域をちょっと……」とか一切考えずに、あえてフラットで良い音をアンプで担保したかったんです。


RB-115のフロント・パネル。EQはフラットに設定され、SGTサーキットはオフの状態で使用された。

200Wという大出力の理由

──ところで、Thunderbirdでの音作りは難しそうですね。
 難しいですね。とにかくミッドが強いので、そこを調整しつつローを煽ったりしますし、Fenderみたいなバチンとした芯の部分を出すにはトレブルなども煽ったりする必要があるんです。さらにリバースとノンリバースだとまた全然違う。1960年代のThunderbirdを使うようになって結構経ちますけど、いまだに試行錯誤している部分もありつつ、なんとなくつかめてきた部分がありますね。ピックアップの出力が高いので、100Wのアンプだとすぐ歪んでしまう。ここ何年かは大きなステージでは200Wのアンプを使っているのも、その方が相性が良かったからなんですけど、今回使ったRB-115も200Wなので、その相性をすり合わせるコツが活きたと思います。

──200Wという大出力は、単に大きな音を出すためだけではないわけですね。
 そうです。ほど良い音量で良い音を出すためですね。やっぱりプレイしていて興奮してくると、もっと音量が欲しいってなるんですけど、B-15やB-100Rと比べても、ボリュームを突っ込んでも悪歪みせず、心地好い歪みなんですね。今回のツアーぐらいの会場規模も考えると僕が求めていたもの、理想としていたものがあったというか、すごく頼りになるアンプです。

──ULTRA HIやULTRA LOはお使いですか?
 THE YELLOW MONKEYの1st〜2ndアルバムの頃はときどき曲によってULTRA HIをオンにしてトレブルを絞るという使い方をしていましたね。そうすると、トレブルより上のもっとギラギラした成分が出て来て、ピックのアタックがギンギンするんですよ。ギターの巻き弦みたいなジョリっとした部分ですね。ここでトレブルだけを上げちゃうと、その部分だけが悪目立ちしてしまうので、トレブルはいつもよりグッと下げてULTRA HIをオンにするんです。……まあ、どんな曲でも合うわけではないんですが(笑)、そういう音が欲しい時にはオススメの方法ですね。ULTRA LOは、Thunderbirdだと必要ないんですが、例えばFender系のベースにフラット・ワウンド弦を張って、あえてモーモーな音にする。昔のレゲエのベースみたいなディープな音やエレキ・ベースでシンセ・ベースみたいな音を狙うっていう時には合いそうですね。

──Rocket Bassシリーズが備えるヘッドフォン・アウトや外部音源入力、ライン・アウトなど自宅練習や宅録にも重宝する機能についてはどのような印象をお持ちですか?
 Rocket Bassシリーズは家で弾くのにもってこいのアンプだと思いますよ。ちゃんと今時のニーズにリンクしている。そのうえでギターやドラムと混ざっても問題ないワット数があるからライブでもしっかり使える。……Ampegって、単なる古いものではなく、普遍的な存在として人気の定番だと思うし、Rocket Bassシリーズは今言ったような機能的な面も充実しています。若い人にもぜひ試してみてほしいし、聴き比べてみてほしいです。今は小型のアンプ・ヘッドやペダル、モデリング・アンプなどがたくさんあって、それはそれで良いんですけど、やっぱりスピーカーが揺れて音を体感できる感じは、シミュレートしたものでは敵わないと思うんです。僕はその、風が震えるような、地面が揺らぐような音でずっとやって来ましたし、それが僕の美学になっているところもありますけど、大小問わず実際にスピーカーを鳴らすことで一歩踏み入れた音になってくるし、プレイも変わってくると思います。

Ampeg Rocket Bass RB-115
200W出力、カスタム15インチEminenceスピーカーを備えた、ライブやレコーディング向けのアンプです。クラシックなAmpeg 3バンドEQ、およびULTRA HI/ ULTRA LOスイッチと新しいSuper Grit Technologyオーバードライブ回路の組み合わせにより、伝説的なAmpegトーンを簡単に引き出せます。追加機能として、AUX入力、ヘッドフォン出力、エフェクト・ループ、拡張スピーカー出力、さらにPAまたは録音機器へのプロフェッショナルな接続が可能なXLR出力も備えています。

廣瀬“HEESEY”洋一(THE YELLOW MONKEY)
1963年、東京都出身。THE YELLOW MONKEYのベーシスト。1978年にベースを弾き始め、1982年以降MURBASなどでのバンド活動を経て、1988年にTHE YELLOW MONKEYに参加。1992年のメジャー・デビュー直後からライブ動員・CDセールスを伸ばし、日本武道館、アリーナ、スタジアムと規模を拡大し続け、ライブ・バンドとしての人気を不動のものとした。2004年に解散するまでに、インディーズ盤を含む10枚のアルバムと24枚のシングルをリリース。その後、ボーカル兼ベース兼コンポーザーとしてHEESEY WITH DUDESを結成する他、様々なアーティストのライブやレコーディングにも参加。ソロ活動も行うなど、精力的な活動を続ける。THE YELLOW MONKEYは2016年に再集結を果たす。ソロHEESEY名義では自身のセルフカバーアルバム1枚とフルアルバム3枚をリリースしている。
◎廣瀬“HEESEY”洋一 オフィシャルウェブ:https://www.heesey.com


取材=山本彦太郎
写真=Koichi Morishima